不器用な君



コーヒーの匂いで目が覚めた。
なかなか素敵な目覚めだと感動して、自分がどこにいるのかを思い出した。



「おはようございます」

「お、おはよう八戒」

「僕は三蔵達を起こしてくるので、ゆっくり飲んでいてください」

「ありがと」



今朝のコーヒーはちょっと苦め。
おかげで頭がよく冴える。
ヤツは眠っているだろうか。
それとも気怠く煙草でも吸っているのか。



「…知るか」



そのままコーヒーを一気に飲み干して。
うっかり口内を火傷した。






食事はみんなで摂るものだ。
もちろん朝食も然り。
しかし一つだけ空いた席が。



「なぁもう食っちゃおうぜ!腹減ったぁ!」

「でも悟浄が…」

「構わん。来ないあいつが悪い」

「そうだよ」

「そうですね、食べましょうか」



悟空がその言葉にいち早く反応した。



「いっただっきまー」

「待てよ、誰か忘れてんじゃないの?」


軟派男がそれを制した。



「悟浄!遅いよー」

「悪ぃ悪ぃ」



何事もなかったかのように登場。
なんか、イラっとする。



「夕べは遅くまで起きていたんですか?」

「まぁね、おねーさんが離してくれなくてさ」

「そりゃさぞかし素敵なおねーさんだったんでしょうね」



精一杯の嫌味をくれてやる。



「おう、そりゃーいい具合で」

「全く、宿に連れ込むのやめてよねー」



何とか呆れた口調を作る。
イライラして仕方ない。
私がどう思ってるかなんて考えもしないだろう。





「何?」

「今晩は部屋を交換しましょうか」

「え?」



八戒さん?



「騒音だって苦情が出てるんですよ、悟浄」

「…あぁ、悪ぃな」

「別に」



何だろう。
普通に悪びれずに謝ればいいのに。
どうしてそんな顔するの?










私もくらい可愛かったら良かったのに。
だから三蔵だって浮気しない。
…って三蔵はがいるからじゃなく、基本的に女に興味ないんだ。
それにこんなことを考える私は馬鹿だ。
だって。
悟浄がしてるのは浮気なんかじゃないんだもの。



「したいようにしてるだけ」



あれが悟浄だ。
前だって。
今だって。
…さすがに隣りでやられたことはなかったが。



ーっ!買い出し行かねぇ?」



勢いよくドアを開けて入ってきた悟空。
ノックくらいしてって言ってるのに。



「うん、行く」



買い物でもして気を紛らわせよう。
この部屋にいると。
アノ声が聞こえてくる気がするから。