不器用な君
「三蔵の馬鹿ッ!もう知らない!」
「勝手にしろ!」
お決まりの文句。
本人達は真剣なのかもしれないが、最早日常になっている以上こちらとしては無関心になる。
「何であんなに喧嘩ばっかすんだ?」
「ああいうヤツだってわかっててお互い付き合ってんじゃないの?」
「そうですねぇ」
八戒が淹れてくれたコーヒーを一口。
この場にいない人物のことを思った。
今日は珍しく一人部屋。
三蔵とは仲良く二人部屋だけど。
静かな夜を迎えたのだが、ふと目が覚めた。
『…っ…っ!』
「………?」
微かに聞こえてくる。
壁越しに。
意識がはっきりしてくると、声も鮮明に聞き取れてきた。
『ごじょ…っ!あぁっ!』
「あぁ?」
もしかしなくても、これは。
顔が熱くなってくる。
隣りの部屋は言わずもがな。
最低。最低。最悪。
これ以上聞いていられない。
部屋を飛び出して自分の部屋から3つ目のドアをノックする。
「おや…どうしました?」
「八戒の部屋で…寝かせてください」
「嫌な夢でも見たんですか?」
「その方がマシかも」
「とりあえず中に」
静かだ。
八戒の部屋は本来私も味わうべき静寂に満ちていた。
「起こしちゃってごめんね。えっと、私床で寝るから」
「僕が床で寝ますよ」
「えっ、元々八戒の部屋なんだから駄目!」
「でも女性を床でなんて寝かせられませんよ」
このままじゃ八戒に丸め込まれるだろう。
口では敵わないし。
なら、切り札を。
「んじゃ、一緒にベッドで寝よう」
「はい?」
「別にいいでしょ。私色気ないし」
「そういう問題じゃないでしょう」
「それに八戒には好きな人がちゃんといるでしょ?」
それなら間違いも起こらない。
「…そんなに僕を床で寝かせたくありませんか?」
「人様の部屋を占拠しに来たんじゃないので」
背中を向けあってベッドに入る。
お互い端にいるとはいえ、やっぱり選択を誤ったか。
八戒は何ともないだろうけど、私が緊張する。
「で、どうしたんです?」
「え?」
「ベッドの賃貸料だとでも思ってください」
「………」
そんなやり方ありですか。
「部屋の壁が薄いのが悪いのよ」
「隣り、今日はおとなしくて良かったです」
「………」
ちなみに端から私、悟浄、悟空、八戒、三蔵との部屋と並んでいたりする。
「ホントもう、嫌になっちゃう…」
「ああいう人だってわかってて好きなんじゃないですか?」
どこかで聞いたような言葉だ。
「でもデリカシーもないヤツなんて最低よ」
「そうですね」
でもそんなあいつが好きなんて。
なんだかなぁ。
段々と頭がぼんやりし始めて。
やがて闇へと落ちた。