ある冬の日のこと 夕方を少し過ぎて。 少し暗い部屋の中で。 お互いジャケットを羽織ったまま。 外から帰って来た格好のまま。 電気もつけずに。 「ねぇ」 「ん?」 「いつまでこうしてるつもり?」 電気をつけようと伸ばした手ごと抱き締められた。 どうせ久保ちゃんのことだから、簡単に離しはしないと待ってみたけれど。 「一生、かな」 「馬鹿言うな」 でも、久保ちゃんの場合やりかねない。 気がする。 「冷たいなぁ」 「ちょっ、何で力を強くするのよ!」 あとどれくらい待てばいいですかね。 「抱きしめあっても寒いものは寒いね」 「そりゃあね」 今は冬だ。 帰って来たらストーブくらいつけるもんだ。 「だからさー久保ちゃん」 「んー?」 「は、な、し、て」 「仕方ないね」 「え?」 すっと立ち上がったかと思えば久保ちゃんの体は密着したまま。 私の腕を掴んで、私の腕で電気のスイッチを押す。 「久保ちゃんは何がしたいの?」 「こういう気分なんだ」 それでなんとなく許してしまう自分が憎い。