愛とは 「ご機嫌がすぐれませんか?」 紅茶が置かれる。 いい香り。 「そこ、普通は気分だわ」 「浮かない顔をされておりましたので」 「………」 「どうなされました?」 この先。 「この先、どうなると思う?」 「さて、私にはわかりかねます。貴方様はおわかりでは?」 「…言うわね」 「それが貴方様の冠する魔女の名かと。ぷっくっく…」 私は、すべて知っている。 私にとってはこれはただの物語で。 こうして知った世界に時々呼ばれてしまうのだ。 結末を知っている私は、それに沿うように干渉しつつも導く。 今までそれを繰り返してきた。 「みんなに幸せになって欲しい。みんなが幸せであって欲しい」 祈りをささげるように組んだ手にギリ、と力を入れる。 「それは、叶わないと思う?」 「…まさか、ご存じないのですか?」 珍しくロノウェが驚いている。 「ええ、正直言って初めて。まだ途中なのよ、そこまでしか知らない。 これって怖いことよね。私の干渉が先を左右してしまうかもしれない」 「…貴方様が気になさることは何もございません」 「え?」 「その程度で叶わぬのであれば、所詮はその程度ということ」 「…あのね、それにどんな努力が、運が、奇跡が必要か知ってる?」 「貴方様が奇跡を語るとは、ベルンカステル卿に笑われてしまいますよ?」 「む、失礼な…」 知った世界に迷い込むのは、とても困る。 既にその人物達を知っていて、愛を持っているから。 「こんな処で一人紅茶をすすってていいのかしらね」 「もとは存在しない筈の方ですので、何をされていても特に問題はないかと」 今の言葉はグサリと刺さる。 「そうね、どうせそうよね、どうせ私なんて……、?」 あ、れ? 景色が、歪んで…。 「ロノ、ウェ、アンタ何を盛って…」 「盛ってなどございません。ただ、愛を込めさせていただいただけで」 ぷっくっく、と悪魔は笑う。 「何、したの」 「ですから、愛ですよ」 体の力が抜けてぐったりと椅子にもたれている。 「もし本当にお嫌でしたら、魔法でお逃げになればよろしいかと」 「ちょっと、何するつもり?」 「次のゲームが始まる前に、貴方様の本音をお聞きしようかと」 「…はい?」 嫌な汗がわいてくる。 「ちょっと、ロノウェ」 「はい?」 「………っ!」 耳元での返事。 この悪魔、一体何を考えて。 「ぁ、ま、待っ…て…!」 首筋を舌が這ってぞくりとする。 「申し訳ありませんが、もう待てません」 「バ…んっ」 戯れのくせにやめて。 すきだと言ったって、受け止めやしないくせに。 「ロ、ノウェ…」 「はい?おねだりでもしたくなりましたか?」 「誰が…っ、」 何のためにこんなことをするのかわからない。 朦朧とし始める意識をなんとか保とうと努める。 「こうでもしないと、素直になられないでしょう?」 「バカに、してるの…?」 そんなくだらないことのために肌を合わせるのか。 「ぁ、ふっ………」 いやだ。 嫌だ 嫌だ 嫌だ。 どうして、手に入らないものを好きになってしまったんだろう。 決して、この悪魔は。 「ロノ、ウェ…っ」 ふ、とほほ笑む顔は少し余裕がない気がする。 すきじゃない。 物語が終わればそれでお終いだもの。 そんなの、わかってるのに。 どうして私は魔女なの。 どうして私はここにいるの。 「この世界の何かに、必要とされたからでしょう」 「え………?」 「貴方様も魔女なのであれば、信じればよろしいのです」 信じる力が。 「魔法になるのですから」 あなたも信じれば、私を愛してくれるのですか? いや違う。 愛は幻想。 だから、魔法なのだから。