傷を癒すには、やはり温泉。

これはどこの世界でも変わらないよう。

みんなで仲良く参りましょうか。

参加するメンバーは?



   ○泊×日 楽しき温泉ツアー



恋人というやつは大胆です。



「温泉でも行きませんか?」

「えっ、こっちでも温泉地なんかあるんだー。いいね、おんせ…温泉!?」

「はい」

「え、あの、その、ふ、二人で…!?」



なんというお誘いでしょう!



「二人きりは、次の機会に」

「え?」

「ユーリのリハビリテーションのためにね、万病に効くっていう温泉地があるんですよ」

「なんだあ、なるほどね」



残念だったわけじゃない。
うん、決して、残念なんかじゃ、ないんだから。



「行きません?」

「行くっ」










「あれぇ、ヴォルフラム」

「なんだ、も行くのか」



この人、今確かに“も”って言ったよ。



「遅いぞ、ユーリ!」



丸サングラスにピンクの毛糸の帽子。
喉笛一号という物騒な名前の杖と巨大なトランクで有利は待ち合わせ場所にやってきた。



「…ヴォルフラム?な、なんで?」

「ぼくはお前の婚約者だから、旅先でよからぬ恋情に巻き込まれぬように、監督指導する義務がある!
 そうでなくともお前ときたら尻軽で浮気者でへなちょこだからなっ」

「…へなちょこ言うな」

「すいません、この調子で押し切られてしまって」



コンラッドが形だけの謝罪を口にした。



も行くの?」

「うん。有利に怪我させちゃったのは私みたいなもんだし、私も仕事サボりたいし」



しまった。
ヴォルフラムのように何か理由を並べ立ててみようとしたら、思わず本音が。



「それよりも俺は、陛下の作戦のほうが衝撃的でした」

「作戦?」

「トランクの中に女性を隠すなんて、醜聞まみれの役者みたいですごい」

「完璧だと思ったんだけどなぁ」



女性って…私は今ここにいるわけで。
他に心当たりがあるといえば…。



「暗殺者じゃないですか!」

「えっ!あの子!?」

「信じられない、見張りに何て言ったんだか!」



覗きに行くと、やっぱりあの女の子だった。



「親子水入らずで話したいって」

「それじゃ認めたも同然だ」

「いったいどこまで間抜けなんだ。どこの世界に命を狙ってきた犯人と仲良く旅するやつがいる?」



ここに一人。
…私も特に異論はないから、二人かな?



「悪かったな間抜けで。けどさ、どうしてを殺そうとしたのかも、誰から徽章を貰ったのかも聞き出せてないんだぜ?
 おれはちゃんと聞きたいの。なのにまだ名前も聞けてねーの」

「あー、そっか。名前かあ」

「なあ、名前はなんていうの?苗字がNGなら下だけでも」



女の子は頑なだった。
両手でしっかりと手摺りを掴んで、こちらを見ようともしない。
同じ目線までかがんで、私も声をかけてみた。
実際、殺されそうになったのは私だし。



「私は。ね、あなたの、名前は?」



…あれ?



「ねえ、もしかして」

「どうも名前どころではないようですね」



コンラッドが女の子の額に触れた。



「熱がある。多分、風に当たりすぎだ」

「熱!?じゃあ温泉に入れないんじゃないの!?」



その前に、この子を室内に連れてってあげない?