子供というのは、女が産むもの。 子供というのは、男と女がいて初めてできるもの。 経験がなきゃ、できるわけないし。 一度も何の経験もなけりゃ、そんな覚えがあるはずがない。 この子どこの子、あなたの子? 「ユーリ貴様っ、どこで産んだ!?どこでいつ、いつの間に!?」 「なっなに、産んでない、産んでませんったら!」 産んだなんだと言うなら、せめて女である私を疑ってくれないか? 「産んでいないということは、どこで作った!?」 「なっ、うっ何も、作ってません!」 「ねーコンラッド、ゴラクインて何?」 「貴人が妻ではない女性との間につくった子供のことですよ」 「ふーん、隠し子ってヤツ?」 「って待てよ?まさかおれ?貴人にご落胤って、おれに隠し子がいたってこと!?」 「その疑惑が」 「あ、ギュンター」 あまりのショックに卒倒なさった。 「なんてことだ!ぼくの知らぬ間にそんな好色なことをっ!だからお前は尻軽というんだっ」 「ままま待ってくれ、脳味噌をゆすゆすゆす揺すらないでくれ、じゅ十六年の長きにわたりモテたことなどないおれに、か、隠し子なんて…」 「すごいわユーリったら、虫も殺さないような顔をして」 わがままプー、強し。 仮にも私も陛下なはずなのに、コンラッドを除いて疑いの目は全て有利に向いている。 「蚊やゴキブリは殺しても子供はつくってませんおれはっ!」 私も信じてるからね。 「で、そのご落胤の君とやらは今どちらに?」 「実はもう…ここにいらしてます…歴代魔王陛下とそのお身内しか継がれないという眞魔国徽章をお持ちでしたので、お通ししないわけにも…」 「徽章を?」 「って、なにそれ?」 「王と身内ってことは、ツェリ様の息子のお前は持ってんの?」 「ぼくは父方の氏だから継いでいない。確か兄上は持っていたはずだ。第七代のフォルジア陛下から、代々フォンヴォルテール家当主に受け継がれているから」 「でしたらそのガキ…いえご落胤候補は、陛下のお子様ではありません!」 「ひぃっ!ギュンターが跳ね起きたっ!!」 人としてありえない動き…そうか、彼は魔族だ。 「陛下はあくまで十六歳になられていないと、ご自分でお強く否定されるので、未だ魔王陛下の証である徽章の図案さえできていないのですから」 「では誰の、どこの家の章を持っていたんだ…あっ、まさかまた新たな兄弟の出現ってわけではなかろうな!?」 誰もが“ない”とは言い切れない。 ヴォルフラムは小走りに扉へ向かって行くと、いっぱいに開いた。 「どいつが…」 ちっちゃい。 年は小学生って感じ? 扉の向こうに居たのは、色黒なお子様だった。 「待てよ?十歳だろ?その子、おれが何歳の時の子供よ?十歳だとしたら…おれが六歳だよ!? 六歳っつったら一年生じゃん!一年生っていや友達百人できるかなだけど、まさか子供はできねぇだろ!? やっぱ違う!やっぱそいつ、おれの子じゃ…」 十歳は息をいっぱいに吸ったと思うと、思い切り床を蹴って二人の距離を詰めにかかった。 「ははうえぇーっ!」 「はいーっ!?」 どんなどんでん返しですかっ!? あまりの驚きに受け入れ体勢が作れるわけもなく、思わず身を引いてしまう。 一瞬、何かが子供の腕で光った。 「陛下っ!」 誰かに思い切り後ろに引っ張られた。 その人物もバランスを崩したのか、一緒に尻餅をついてしまう。 光った金属は床を滑って、ヴォルフラムの足元で止まった。 「陛下っ、ああなんという恐ろしい…陛下、お怪我は」 「なに、何が起こったんだ?」 「………」 二重の予想外の展開に、私は言葉が出ない。 引っ張ってくれたのは有利だったようだ。 でもその前にコンラッドが間に入ってくれて、子供の手から刃を叩き落していた。 「お二人とも本当に何ともございませんか?この美しいお身体のどこかに、傷など残ろうものなら…」 「…大丈夫」 「ていうか、関係ないとこ触んなって」 「も、申し訳ございませんっ!まさか、まさか子供が、暗…このような大それたことを企てようとは」 「あん?」 「さつ?」 「ちょっと、私殺されかけたってこと!?」 「たとえ年端のゆかぬ者といえども、魔王陛下への大逆は許し難い大罪です。極刑を以て償わせねばなりますまい。 打ち首獄門あるいは市中引き回しの上、火炙りに…」 ギュンターも時代劇を学んだのか。 「ちょっと待て、時代劇でしか聞かないような罰は待てって!相手はまだ小学生だぞ!? いくらなんでも小学生が暗殺は思いつかねーだろ。もしかしたら誰かに操られてて、洗脳されてんのかもしれないしさっ」 とりあえずギュンターはこのままだと、自分で刑を実行しそうだ。 有利は立ち上がろうとしたけど。 「あいた」 すぐにへたり込んでしまった。 「え、もしかして、足」 「ああ、捻ったかな」 コンラッドが有利の靴を脱がせると、踝が腫れあがっていた。 うわ…痛そう。 「参ったなぁ…軸足だよ」 「ごめん、有利。私を助けてくれたから」 「ああなんと、お労しい!お可哀想な陛下、できることならばこのギュンターが替わって差し上げたい」 「別にシーズン中ってわけでもないから、じっくり治しゃいいことなんだけどさ…いてっ」 「すみません。捻挫だけかどうか確かめようと」 「この国最高の名医を、大至急、王城に呼ぶのです!」 ギュンター、怪我の原因を作った私が言うのも難だけど、これはただの捻挫です。 同時にコンラッドがのどかな声で、下を向いたまま兵士に告げる。 「ギーゼラを寄越すように言ってくれ。それと、その子には見張りをつけろ」 兵士は一礼して駆け出した。 …ちょっとコンラッドが、カッコ良かった。