あなたにだからこそ言います。
あなただからこそ触れたい。
あなただからこそ愛したい。
あなたじゃなかったら、全部意味のないこと。
甘い香りに夢は現実に変わる
「この尻軽めっ!またお前は」
「だから尻軽って何だよ!」
外が騒がしいと思って窓を開けてみれば、なんてことない、いつもの痴話喧嘩だった。
ヴォルフラムってばホントに有利を愛してるんだね。
とんでもなく一途なんだから。
こっちに来るのはまだ三度目だというのに、“いつも”という感覚になるのは滞在期間のせいだろう。
私と有利は、帰れなかった。
その現実に直面してから、早四ヶ月が経とうとしている。
「陛下、休憩にお菓子でもどうぞ」
「ありがとう」
甘い香りが鼻をくすぐる。
「だからお前というやつは」
「誤解だって!」
有利も苦労するなぁ。
この場合、どっちが婿でどっちが嫁なんだろ?
どっちも花嫁衣装が似合いそうである。
「ねえねえコンラッド」
「はい?」
「あの二人って結婚する時はどっちがウェディングドレス着るんだろ?」
「さあ?」
クスクスと笑い合う。
有利たちの痴話喧嘩はまだ終わらない。
面白いので、優雅にお菓子でも食べながら見物しよう。
コンラッドに背を向けたまま、適当に後ろに手を伸ばした。
ぺち。
「?」
振り向くと、コンラッドの頬に私の裏拳が。
…左頬に。
「うわっ、ごめん!」
「求婚ですか?」
「まさかっ」
なぜそこでにっこりと言う!
「今のは事故でしょ!しかも裏拳って喧嘩売ってるようなもんじゃないの!」
と、意識の隅で有利もそういえば事故だったと思い出す。
「事故ですか」
「事故ですっ」
どうして食い下がるウェラー卿。
「知ってますか?この世に偶然なんてないってことを」
「は、はい…?」
私の手を取って、自分の右頬に持って行こうとする。
“右頬も差し出せば…”
「コ、コンラッド!は、はなしてよっ」
「俺じゃ不満ですか?」
いつか聞いた言葉だ。
「そういう問題じゃないっ!だって平手打ちもしてないし…」
そうじゃないと婚約関係になれないわけでもな…こん、やく?
「ちょっと待った!なんでいきなりこういう展開になってるんですかね!」
「どうして?」
私でいいの?
いや、大事なのはそれだけどそうじゃなくて…。
「私、好きって言われた覚えなんかないよ」
「」
「平手…ましてや裏拳なんかで婚約するなんて御免。それじゃあお互い好きっていう感情がないみたいじゃない」
それじゃあただの“関係”だけじゃないか。
「…」
コンラッドの手が私の頬を包む。
なめらかな感触じゃない、軍人の手。
胸に光る石に散った銀色と同じ瞳が目の前にある。
「あなたを愛してる」
女の子は夢を見る。
いつか王子様に出会いたいと夢を見る。
「コン、ラッド…」
目をそらせない。
早く言葉を、返さなくては。
ずっと、想っていたと。
「…私も、あなたが…すきです」
彼は極上の笑みを見せた。