ヴォルフラムの時も思ったけど。
この世界じゃ男と男がカップルなんて普通なんだね。
紛れもない女がいるというのに、有利が男装だと思われるとは。
しつ…失礼だよね!?
鎖で繋がれた二人と手綱を握る一人
「だから女じゃねーっつってんの!胸だけじゃなくて下も触ってみ、下も!」
「ふざけるな!その人相書きのどこが似ているというんだ!」
「そうだー!おれよりチャーリー・ブラウンに似てんじゃんそいつっ」
兵の一人が有利の右腕を掴み、手の甲をイクラ頭に向ける。
有利の手は赤くなっていたけれど、真ん中にはぼんやりと白い跡が。
「見ろ!駆け落ち者の印があるぞ。隣国ジャ婚姻に関する咎人は、手の甲に焼き印を押されるからな。
おまえらそっチから逃げてキたんだろ。これで言い逃れでキねーぞ」
「待てよそれはシーワールドのスタンプだって!ほらワンデイフリーパスって書いてあるだろ、読めるだろ!?」
「さあ、こイつの首をへシ折られたくなけリゃ、エモノを置イて互イの腕ニこれを填めな」
短く重そうな鉄鎖が、有利たちの足元に投げられた。
グウェンダルは鋭い視線を向けたまま、おもむろにしゃがんで鎖を拾った。
「右手は、やめろ。おれ右投げ右打ち、だからっ」
二人は咎人として成立してしまう。
私の場合どうなるんだ?
グウェンダルは自分の右手と有利の左手首に鉄の輪を填めた。
それは随分重そうだ。
「ふごっ」
「!?」
有利が頭突きと急所蹴りを同時にかまして、締め付けていた男をうずくまらせた。
さらに咄嗟に手近な藁人形を手に取り叫ぶ。
「おまえら、動くなーっ!動くと神様に釘を刺ーす!」
人質を取った犯人のごとく頑張った有利だが、グウェンダルの攻撃の方が効果的だった。
長い足で次々に蹴りを放っていく。
カ…カッコイイ。
「走れ!」
またも引っ張られ、教会を飛び出す。
後には足音と怒声。
ふと横を何かが横切った。
シャレに、ならない。
「やめてくれー!そんな投げ槍にならないでくれよーっ!」
街の入り口では斑馬が、顎によだれと草をつけて満ち足りた顔で待っていた。
飛び乗った瞬間に、ズキリと頭痛を感じた。
グウェンダルが馬の腹を蹴ったのを見て、私も自分の馬の腹を蹴る。
「っ」
しかし、そう長く乗っていられなかった。
太陽に目が眩み、意識の一部に穴があく。
手綱を握っていた手が、汗で滑った。
まずい、と思ったときには遅く。
「ぁっ」
「!?」
落馬ではないと思いたい。
だって、片手はまだ手綱を掴んでいる。
馬を落ち着かせるにはどうしたらいい。
走らせたのは私だけど。
「くっ…フェリクス、止まって!フェリクス!!」
馬の名前を呼んで、体重に任せて思い切り手綱を引くと、少しずつペースが落ちてきた気がする。
「グウェンダル、有利、先に行って!!」
「でもっ」
「私は、指名、手配されて、ないんだからっ、万が一捕まっても、大丈夫だって!」
多分。
似たようなことを前にも言ったような気がする。
「無事でいろっ!」
その言葉と共にグウェンダルの馬が速度を増した。
グウェンダルにそんなこと言われちゃったら、なんか大丈夫な気がしてくる。
「…っと、フェリクス?」
馬は止まって次の指示を待っていた。
手綱を引っ張り続けた手が痛い。
後ろからはあの赤い髪の兵達が目前に追っている。
それならやることは一つ。
しゃがんで砂を片手に掴んだ。
そして、クラクラする頭をなんとか我慢しつつ、再び馬に飛び乗った。
走らせるのは、有利たちとは反対だ。
「どの道有利とグウェンダルがあの状態じゃ、グウェンダルは私まで守れない!」
「なんだお前、捕まる気ニなっ…ぎゃあああっ!!」
兵士とすれ違う瞬間に、掴んだ砂を馬の目にかけてやった。
馬に罪はないから、大変可哀想なことですが。
ちらりと後ろを確認すれば、案の定、馬は暴れて男達を落としていた。
そのまま街も通り過ぎる。
私が今できるのはコンラッド達と合流することだ。
だけど、やっぱり太陽は容赦ない。
教会で多少癒されたとはいえ、街に着いた時点でぐったりとしていたのだ。
一面砂漠でどれだけコンラッド達と別れた場所に近付けたのかわからない。
正直、方向が合っているのかもよくわからない。
というか、会えるという保障なんてどこにもない。
そして今度こそ、私は意識を失って落馬した。