ダイエットをしたい方は砂漠に来るのがオススメ。

体中の水分がとんで痩せ型どころかミイラになるかもしれないが。

そんな砂漠の中で出会った動物園の人気者は。

カラーが違うだけでとんでもない生き物でした。



   最良の決断とは



「大丈夫ですか?」

「うん…まあ」



もちろん嘘ですが。
今回の私の相乗りのお相手はコンラッドに決定した。
ヴォルフラムは真っ先に婚約者の手を取ったし、グウェンダルは不機嫌モードだったから。
…グウェンダルはいつでも不機嫌だと思うけど。
それに手を差し伸べてくれた王子はコンラッドだった。



「コンラッドは暑くないんだよね?」

「そうですね」



はじめの内はドキドキして無駄に汗をかいていたけれど、今ではそんな余裕はない。
紫外線対策万全的な服は、サウナスーツのようである。
ああ、痩せるかな。



「どうしてあんたたち暑くねーのぉ?」



有利がこちらを振り返って、コンラッドに言う。



「訓練かな」



訓練で何とかなるなら、全国の女性は教えを請うだろう。
夏でも化粧が落ちることを心配しなくていいのだから。



「あれーなんかかーわいいものがー、砂の中央でバンザイしてるぞー?」

「何がだ?ぼくには見えないぞ」



私にも見える。
だけどあれって、こんなとこに生息するような生き物だったっけか。
全国の動物園の人気者。



「こんなとこで会えるなんて!超かわいー…いっ!?」

「うわっ、何っ!?」

「砂熊だ!」



はい!?
突然目の前の人々が一気に消えたと思ったら、私たちも例外じゃないらしく砂の中に吸い込まれていく。



「どっ、どうなってんの!?」

「どうなっちゃうの!?」



砂が口に入ってくる。
おまけに息も苦しい。
下を見ると、コンラッドが私を支えてくれていた。
上には有利、さらにその上には穴の縁ギリギリにいるグウェンダルがいる。
蟻地獄だ。
黄色い砂が渦を巻き、何もかもがその中に落ちてゆく。



「なにこれ、こんなこと…そうだ、ヴォルフラムが!おれより先に落ちたんだよ、なあみんな死んじゃう!?ヴォルフ死んじゃうのか!?」

「運が悪ければな」

「大丈夫、あいつを何とかして抜け道を見つけるまで息が保ちさえすれば何とかなります。さ、陛下達は早く登って!」



息が保ちさえって…それってどれくらいの時間がある?



「でも助けに行かないとっ!あんな大きな熊相手にヴォルフラム勝てるか判んないしっ」

「お前が行って何になる」



グウェンダルは有利を離さない。



「そうだけど、そうだけどさっ、ほっとけねーじゃん!兄弟だろ、助けに行けよっ、おれなんかより弟の腕を掴んでやれよっ!
 なあコンラッド、あんたならアイツ、あの熊やっつけられる?剣豪なんだから中ボスくらい倒せんだろ!?」

「おっしゃるとおりかもしれませんが、今は陛下を安全な場所にお連れするのが先です」



国には王が大事なのだ。



「そんな口のきき方すんなよっ!おれのことはいいから…」

「よくないです!」



コンラッドは傷のある眉を僅かに寄せて、苦しい声で言う。



「陛下が第一だ。それは全員、同じこと。ヴォルフラムだって一人前の武人なんだから、それくらいの覚悟はできているはずです」

「けどおれはっ…」



簡単に考えればいい。
今足手まといで邪魔なのは私と有利だ。
そして大事にされているのも私と有利だ。



「グウェンダル、さっさと有利を引き上げて」

?」

「ほら、ぼさっとしてないでさっさと上がる!私も落ちるでしょ!」



しっかりとした地面を踏みしめる。
そしてまだ穴の中にいるコンラッドに言った。



「これでいいでしょう?」

「なん…」

「コンラッド、命令よ」



有利も私が言いたいことに気付いてくれたようだ。



「ヴォルフを助けに行ってくれ!おれたちはこのとおり大丈夫だし、強いのが一緒だから心配ないって」



虚を突かれた顔をして、コンラッドは私たちを見比べた。
そして命令ですかと呟くように確認してから、グウェンダルにはっきりと言った。



「陛下を」

「ああ」



これでいい。
グウェンダルの声に、少し安心したようなものを感じたから。
だって、兄弟だもんね。
コンラッドは穴を滑り降りて行った。



「奴の抜け道の見つけ方は判るか!?」

「あいつに出くわすのは三度目だ!ではスヴェレラの首都で!」



どうか、無事で。