「魔笛」 確か中学の時、音楽の時間で聴いたな。 それを自分が手にする時がこようとは。 いや、あっちの魔笛には何も関係ないけど。    マのつく宝はいわくつき 「もしかして、私か有利のどっちかが捕らえられてるとか思ってくれたの?」 失礼な話ではあるが、ないとも言い切れない。 「お前たちはへなちょこだからなっ」 「うるさいっ」 「けど、こうやっておれたちを呼べば済むことなのに、なんで探しになんか行ったわけ?しかもよりによって…」 有利が言葉を切ったので、私がつぐことにした。 「…グウェンダルが」 「そうなのです。おのれの分を弁えぬ愚かな人間など、処刑されたところで我々には何の関係もございません。ですが、陛下の…」 「そっくりさん?」 「はい、そのそっくりさんが、魔王にしか使いこなせない特別な物を所持していたという情報が入ったのです。  魔族の至宝ともいうべき貴重な物で、二百年ばかり前に持ち出されて、以後行方が判らなくなっていたのですが、その情報が事実なら、ぜひとも我々魔族の手に取り戻さねばなりません。  二十年前に探索の者を放ったのですが、彼がグウェンダルの係累なので」 「誰だった?」 コンラッドが訊ねる。 答えを知ってるのに、確認せずにいられないという顔で。 「グリーセラ卿です。グリーセラ卿ゲーゲンヒューバー」 「ああ、ヒューブか」 意味深げに耳をいじったりしている。 …苦手なのかな。 「どういう奴?」 有利がヴォルフラムに探りを入れる。 「兄上の父方の従兄弟だ。ヴォルテールの叔母君の一人が、グリーセラ家に嫁いだからな」 「へえー」 「なーんだ」 有利は相変わらずだ。 また何か期待したんだろう。 「じゃあ今度の宝物は、おれたちじゃなくても持ち歩けるんだ。手がしびれたり、噛み付かれたり、ゲロをリバースしたりしないやつ」 今でも良き思い出とは言い難い。 「そうですね…持ち歩くことは可能でしょうね。お吹きになれるのはこの世で陛下達お二人ですが」 「「吹く!?」」 「ええ。スヴェレラで目撃されたのは、魔族の至宝『魔笛』でございますから」 「魔笛か!」 ヴォルフラムがいきなり弾んだ声を上げる。 笛の嗜みでもあるんだろうか。 「父上からお聞きした話だが、それはもう素晴らしい音色だということだ。天は轟き地は震え、波はうねって嵐を呼ぶそうだ」 「う、牛は?」 「牛はモサモサ鳴くばかりだが」 どこからつっこんでいいのかわからない。 牛の鳴き声とかモサモサとか天が裂けるとか嵐とか。 とりあえず、またロクでもなさそうですね。 「一度は聞きたいと思っていたんだ。楽しみだな。ユーリの笛の腕前も」 「おれ!?おれが吹くの!?それならリアの方が」 「なんで私に振るかな!」 笛なんてリコーダーくらいしか吹いたことないって。 「処刑される罪人の持ち物を、慈悲深く棺桶に入れてくれるかどうか」 「え?どうして?没収されるの?」 「棺桶って…殺されちゃうのか!?殺されるほどの凶悪犯罪やらかしちゃったのか!?」 「いいえ、確か、無銭飲食だとか」 「「無銭飲食ー!?」」 そんなんで殺されてしまうなんて、出来心でもわざとでもなんでも死んでから浮かばれないよ。 犯罪に大きい小さいなんてないって言うけどさ。 「…助けないと」 「はあ?」 え?だの、は?だの、はあ?だの、それぞれ間抜けな返事をする。 その中には私も入っていたり。 「おれの偽物を助けないと!」