やっぱ夏ってのはどこでも暑いんだね。
肌がかぴかぴした感じがして、ちょっと腕を舐めてみたらしょっぱかった。
あの長さがギネスブックにでも載りそうな国名は。
半世紀以上生きればスラスラ言えるようになるだろうか。
ドッペルゲンガー?
案内されたのは浜辺から歩いてすぐのご用邸。
歩いてすぐってことは、私が呼ばれた海は地球ならプライベートビーチってところかな。
着替えとして用意されたのは、白いワンピース。
いそいそと着替えてみんなのところに戻ると。
「うわっ!何してんの!?」
「陛下!ユーリ陛下の濡れた衣服を乾かそうと風を」
巨大なアヒルが首を絞められ、バタバタもがいていた。
「やめてくれ動物愛護協会に睨まれそうなことは!もう充分に涼しいからさっ」
「ああなんと慈悲深いお言葉でしょう!このような動物にまでお心を砕かれるとは!それでこそ、この、偉大なる魔王とその民たる魔族に栄えあれ
ああ世界の全ては我等魔族から始まったのだということを忘れてはならない創主達をも打ち倒した力と叡智と勇気をもって魔族の繁栄は永遠なるものなり…」
これが国の名前だなんて、誰が考えたんだか。
眞魔国とはよく略したものだ。
「…王国の第二十七代魔王陛下であらせられます。さて陛下、私は今、故意に誤りを口にいたしましたが、どの部分だったかお判りですか?」
あと100回くらい言ってくれれば。
「す、すいません、気付きませんでした」
「やはり陛下、この国にもっと長く滞在いただいて、民のことをはじめ国土や外交関係の基礎などを学んでくださらなくては。
いえいっそもうあちらに戻ることなく、いついかなるときも私をお側に…」
話が変な方向に転がりかけている。
と、コンラッドがうまく軌道を修正してくれた。
「言っただろうギュンター。陛下たちは地球や日本にとっても大切な存在なんだから、俺達だけで独占するわけにはいかないって」
家族は心配してくれるかもしれないが、日本ではいち小市民だ。
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
相変わらず彼はキャンキャンと吠えるようだ。
「ギュンターっ!ユーリとを迎えに行くのが兄上だけというのはどういうことだ!?特にユーリはぼくの婚約者だぞ!?
そのぼくに何の知らせもないとは、バカにするにもほどが…ユーリお前、腕と顔だけ色が違うぞ?悪い病か、呪いにでも…」
「呪いって何だよ、失礼だなっ」
どっからどう見ても日焼けです。
ちょっと珍しい焼け方だけど。
ヴォルフラムは親指と人差し指で有利の頬をつまんで、思い切り横に引っ張った。
「ひててててっ、がっきゅううんこ」
「本物だな?」
コンラッドに訊ねる。
「本物だよ」
「こっちもか?」
危機を感じて頬をガードしながら答える。
「当たり前でしょっ」
「ということは、兄上が迎えに行ったというのは、誰だ?」
「偽物かな」
偽物?
「手をお離しなさいヴォルフラム!陛下のお綺麗な顔に痕でも残ったら承知しませんよっ」
「なんらのよ、いったい。偽物とか本物とかって。確かにおれは王様として、かなり胡散臭いとは思うけどさぁ」
やっと離された有利の頬は少し赤くなっている。
「実は…陛下の御名をかたる不届き者が現れたのです」
「ええっ!?」
「渋谷有利原宿不利だって!?」
「いえ、そこまで詳しくではございません。我が国の南に位置するコナンシア、スヴェレラで捕らえられた咎人が、魔王陛下だなどというふざけた噂が流れて参りまして。
我々としましては、そんなはずはないと取り合わずにおりましたが、処刑の日取りが決まったことで些か不安に…あの、万が一その咎人が、本当に陛下でいらしたらと…」
「つまり、もしも俺達の知らないうちに、陛下がこちらの世界、それも眞魔国以外の土地に着かれていて、部下もなくお二人で困り果てた結果、
やむなく罪を犯し捕らえられたのだとしたらどうしましょう、これは真相を突き止めねばならない。ということで改めて我々でお呼びしたところ…」
「私は友達と待ち合わせてた噴水から」
「おれはバンドウくんと握手しながらスターツアーズ真っ逆さま、と」
ヴォルフラムが不機嫌そうに呟いた。
「バンドウくんって誰だ、男か?」
おん…男の嫉妬って、怖い。