採掘場を離れる面々は、大所帯になった。
騎乗権を女の人たちに譲ると、私達魔族は歩きに。
グウェンダルは怪我してるのに、乗馬班。
魔王二人とヴォルフラム、ニコラは馬ゾリだ。
あなたはどんな音色がお好み?
「ねーヴォルフラム」
「なんだ」
「なんでお前に膝枕されてんの!?」
私の疑問を有利が代弁してくれた。
「有利は大魔術を使った後に、いつも二、三日は寝込むだろう。なのに今回は二時間しか眠らなかった。いいか、二時間だぞ?
あれだけおぞましい術を見せつけて、二時間てことはないだろう。それで一応、大事をとって、ソリ班の一人に入れたのだ」
「…だからって、どうしてお前に膝枕!?」
…婚約者だから、そうですね。
「嬉しいだろ」
「嬉しいもんかっ」
「あのー」
隣のニコラがにっこりと私に尋ねた。
「とっても仲が良さそうに見えるんだけど、結局ユーリはお兄様と弟さんの、どちらと結ばれるの?」
「…女の子が相手っていう選択肢はないのかな?」
別にお兄様と弟さんを否定するつもりはないんだけど。
「えっ、もしかしてもユーリのこと…っ」
「ちがーう!」
「結ばれねぇよっ、誰ともっ」
「え、じゃあわざわざ何のために駆け落ち紛いのことまで…」
だからそれは誤解だってば。
「おれはしてな…」
「こいつは不貞で尻軽だからな」
そんな終わることがなさそうな会話に、コンラッドが口を挟んだ。
「じきに国境の街なんですけど…ユーリ陛下?あ、そこですか。膝の上なんかにいるから判りませんでしたよ」
「助けてコンラッド!あんたの後ろでタンデムでいいから、おれも馬に乗せてくれ!」
「そう言われましても、怪我人扱いですからね」
「じゃあ車酔い。おれ馬車酔いで、外の風にガンガン当たりたいからっ、連れ出して、こっからどうにか連れ出してくれよーっ」
苦笑混じりのコンラッドに有利はなんとか救出された。
「なんなんだあいつはっ」
わがままプーはご立腹。
「もしかして、ユーリってばコ」
「それはないっ!それよりニコラ…」
さらなる火種を投下しようとしたニコラに、別の話題を振った。
だが、ヴォルフラムの不機嫌はそう続かなかった。
真剣な顔になって、危険を告げる。
「追っ手だ」
「え?」
「…って、うわ、前方に砂熊がいるんですけど」
「なに!?どこだ!」
やっぱり見えないのか。
前方には凶悪な熊、後方には武器を持った人間。
挟み撃ちというやつか。
「!」
「有利?」
有利の声に顔を向けると、剣の柄に手をかけるコンラッドが見えた。
「ソプラノリコーダーだ!」
「はあ?」
この非常時に何を…と、腰に挿していた魔笛を思い出した。
魔力を消費した有利にさらに使われてはたまらない、と私が預かることになっていたのだ。
リコーダーを吹き始めて早云年の腕をとくと聴くがいい砂熊&追っ手!
何が起きるのか知らないけども。
ふひぃぃぃぃぃ。
ただ息を込めても一つの音がなるばかり。
それどころか、周りの視線を集めてしまい、すごく恥ずかしい。
いや、笛は一つの音を出すためのものじゃない。
というわけで、何でもいいからとりあえず一曲演奏。
「陛下、お上手ですが…」
「ちょっとー!そんな目で見ないでよー!」
この非常事態に遊んでいるわけじゃないのだ。
エーデルワイスにメリーさんのひつじ、チューリップ、かたつむりなどなど…何を吹いても反応しない。
「い、今の曲すごかったなっ」
「有利!励ましてくれてるんだろうけど、激しく虚しくなるよっ!」
残された曲といえば。
知らない人はいまい。
「雷だ」
嘘。
空を見上げれば、いつかのようにすっかり雲で暗くなっていて。
ぽつり、と一滴を感じた直後、豪雨になった。
「雨将軍よ、雨将軍だわ!」
そんな呼び名などどうでも良かった。
ソプラノリコーダーが本当に魔笛だったなんて。
いや、私が初めて魔王であることを実感できるなんて。
それよりもまさか、魔笛を発動させるための曲が。
“かっこう”だったなんて。