なんで? なんで有利の魔術ってこうなの? 一回目は綺麗だったのに、なんでこうなの? 今回もやっぱり悪夢が見られそうな仕様だった。 悪と戦うには巨大化だ! 高い塀の向こうから爆発音と悲鳴が聞こえてきた。 また有利は派手にやっているらしい。 「行こう」 「え?」 「魔力が発動してる。強大で、しかも凶悪な…」 …仮にも私の魔力も混ざってるみたいなのに、凶悪とか言わないで欲しい。 「まさか、ユーリ陛下…」 「まさかじゃない。絶対だ」 そう言い切ったヴォルフラムはカッコ良かった。 計画通りに兵隊から制服を奪う。 ヴォルフラムでも大きそうだったから、私にはなおさらだった。 「…やっぱり」 大小取り混ぜた土の盛り上がりが、一角に集まっている。 その場所を背中に庇うように、有利は仁王立ちしている。 良かった、無事だった。 「ねぇ、あれ何?」 「…恐らく墓だと思いますよ」 誰の、とは聞けなかった。 「あ、なんか目から飛んだぞ」 「…あーあ、コンタクトだ」 「コンタクトって飛び出るもんだっけ」 収容されていたたくさんの女性達。 みんなボロボロだ。 有利の姿を見て怯えている。 でも多分、有利はこの人達のために魔術を使ってるんじゃないかな。 兵士達はどう攻めたものかと考えているようだ。 地の揺れが、近く大きくなっていく。 「…無償の愛に命を捧げ、健気にも男を信じた女に対し、褒めるどころか鞭打って冷酷非道な国家の仕打ち… ともに逃げんと誓った者も、我が身かわいさに女を売ったという。そもそも男女のわりないの仲は、おなご一人では為し得ぬもの。 だのに、か弱き身ばかりに罪を背負わせ、寄場送りとは何事か!」 揺れが、一瞬だけ静まった。 「互いの慕情をもってしか、罪と罰とは定められぬというのに、愛し恋ひ渡る二人を裁くのが理も弁えぬ白もひかん! 別れろ切れろとは芸者の時にいう言葉、白もひかんごときに強いられるものではないわ!」 「しろもひ…?」 「あれ、なんか新しい小芝居が混ざったみたいだな」 「しかも更生を謳った施設では、体罰、暴力、極悪待遇。人としての尊厳さえ奪われて、 唯一の赤子までも行きながらにして地中に埋める、地獄の鬼さえそっぽを向くであろう残虐非道ぶり…」 「赤子って…ここ、そんなことまで…」 そりゃあ有利が爆発するわけだ。 じゃあ、奥の、お墓は…。 有利の指が真っ直ぐに赤ひげの男に向く。 男は短く叫んで腰を抜かしてしまった。 「その行状、すでに人に非ず!物を壊し、命を奪うことが本意ではないが…やむをえぬ、おぬしを斬るっ!」 ぼこり、と墓地から妙な音が聞こえた。 気を失う人々、悲鳴をあげる男達。 「ちょっ…ねぇ、あれ…」 「うわ」 ヴォルフラムはやっぱり私の仲間だ。 涙目でないものの、やはり息を呑んでいる。 「し…死人だ。あいつ死人使いだったのか!?」 「成敗っ!」 私は最早見ていられず、ぎゅっと目を閉じていた。 「違うな、死人じゃない。人間の腕に見えるが…砂と土だ。泥人形かな、厳密にいうと」 「ほほほほんとに!?」 「あれが泥人形か!?おいあれが…なんだ!?ががが合体するぞ!?」 「はあ!?」 思わず目を開いてしまうと、ゾンビだか泥人形だか知らないが、合体して大きくなった。 巨大ロボ、みたいな。 「こんなおぞましい魔術は見たことがないっ!」 「その言葉は聞いたことあるけど」 コンラッドって、なんでいつもこんなに冷静なんだろ。 頼もしいかぎりだけど。 「陛下、ついに特撮ヒーローものの技まで学ばれたんですね」 「かかか感心している場合かコンラートっ」 特撮モノといえば、子供に人気のはず…だけど、こんなところに子供がいるのは似合わない。 そんな似合わない子供は、あまりの恐怖に耐えられず…。 「可哀想に…」 「よーし、腕を前から横へ伸ばしてー手足の運動ぉー」 ラジオ体操ってところがさすが有利のセンスだ。 泥人形ロボが動く度に、採掘現場は崩されていく。 「悪魔だ!奴は地獄の使者だーっ!」 「地獄の使者だと!?余の顔を見忘れたか」 ははーっと、大半が平伏した。 「さて、どうやって止めようか」 「ぼくに訊くなぼくにっ。あああああー動いてる!動いてるそばから皮膚が融けて流れて落ちていく、でも砂だから土に還れる」 「実況お疲れ様、ヴォルフラム。コンラッド、特に止める気ないでしょ」 「まさか」 とりあえず止めようにも近付きたくはないな…。 魔王の片割れとはいえ。 とか思っていると、鼻息荒く軍馬が駆けて来た。 馬上の人物はユーリの近くで飛び降りて、左手で襟首を締め上げる。 「兄上!?」 「グウェンダル!?」 「なにを、して、いるっ。何人か殺さなければ気が済まんのか?ええ?」 「そなたが何者かは…存ぜぬが…」 ああ、もうダメだ。 意識が。 「この辺りで止めておけ。いいなユーリ、この馬鹿げた…」 遠くなる景色の中、グウェンダルがユーリと呼んだことが強く印象に残った。