ようやく辿り着いた首都は。

夜とはいえ、静かだった。

いわゆる歓楽街と呼ばれる場所には、女の人の姿はない。

有利とグウェンダルに会えるといいんだけど。



   婚約者は癇癪もち



「首都って、こんなに活気がないもん?」

「いえ…スヴェレラは特別でしょう」

「酔っ払いしかいない」

「おそらく働きに出ているんでしょうね、女子供は」



数年前に法石が発掘されたから、この国の気候はおかしくなったらしい。
雨が全然降らなくなったという。
作物が枯れれば、人だけでなく、家畜も生きることができない。
食糧の自給率は最低となった。
その代わり、希少価値がある法石は世界的な市場で取引され、屑同然のものなら簡単に買えるようになったんだとか。
いい法石は、女子供の手でしか掘れないといわれている。



「「気分が悪い」」

「え?」

「この街には法力に従う要素が満ちている。しかも法術士の数も多い」



びっくりした、ヴォルフラムも同じ意見なのかと思った。
女の人が働きに出るっていうだけならいいと思う。
女は家を守るんだーとか言う気ないし。
だけど子供までってのはちょっとなぁ。
それになんだか、自発的に働いている気がしないのだ。



「俺には魔力の欠片もないから、そういうことは判らないけど。辛ければ宿で…」

「うるさい」

「…陛下は大丈夫ですか?」

「私?私は全然」



鈍いのか、はたまた魔力がないというのか。
…いやいや、魔術を使えないだけだもん、多分。



「そんなに法力に従う要素が多い街で、グウェンダルは力を使えるだろうか」

「魔術や魔力に頼らなくても、兄上は充分に立派な武人だ。だが、正直なところこれだけ魔族に不利な土地で、魔術を自在に操れるのは、母上と…」



ヴォルフラムの眉がひそめられた。



「…スザナ・ジュリアくらいしか、思いつかない」

「そりゃ大変だ」



一瞬。
気のせいかと思うくらいの一瞬。
何かを感じた。
…本当に、気のせいかもしれない。



「他の隊の誰か一人でも、ユーリ陛下と接触できればいいんだが」

「首都で合流と言ったんだから、ぼくらを待っていないはずがない。宿屋に泊まっていなかったのは、例によってユーリの我がままだろう。
 あいつは旅を娯楽か何かと勘違いしている」

「………っ」

「?どうしたんだ、

「いや、何でも…」



顔を隠して、笑いを堪えていただけだ。





「え?わっ!」



女の子にぶつかってしまった。



「あっごめんなさ…」

「ユーリ?」

「え?」

「似てないぞ。何を勘違いしてるんだ」

「そうだよ。女の子に対してしつれ…」

「ユーリはもっと品があって洗練されている。それにこれは、棒みたいだとはいえ女だぞ」



女の子に向かって棒とは何だ、わがままプー!



「待って!待ってあなたたち、ユーリを知ってるの!?」



彼女は頭部を覆っていた布を落として、私達を見比べるとヴォルフラムに話しかけた。



「あなた魔族の人ね。だってすごく綺麗な顔してるもの。ねえあなたがた、ユーリの知り合いなの?」

「知っているも何も…」



コンラッドが言いよどんでいるうちに、ヴォルフラムはふんぞり返って少女を眺めた。
なんて似合うポーズ。



「ユーリはぼくの婚約者だ」

「えっ」



彼女はいけないことを聞いてしまったような顔をした。
ああ、やっぱり男同士じゃびっくりしちゃうよね。



「…ということは、それじゃ、あの、あのっあなたが、あのぉ」

「なんだ」

「婚約者をお兄様に奪われたという弟さんなのね?」

「なにぃ!?」



知らないところで話が展開している。



「どういうことだ!?どういうことだコンラート、!?兄上がそんな、まさか、いややっぱり、というかあの尻軽っ!」

「落ち着けヴォルフ。ちょっとした誤解だから」

「そうそう、ごか」

「あの、いえ、誤解じゃないわ。あたし二人に直接会ったんだもの。気の毒に、あのひとたち追われていたの。お互いに手錠で繋がれて離れられないのよ」

「手錠だとぉ!?」



それ一回私が説明したし。



「でもどうかもう責めないであげて。二人はお似合いの偽名まで名乗って、末永く幸せになりそうだったもの」



末永くって。



「…その場しのぎとかなんじゃ…」

「そんなことないわ!だってユーリとあの人、あの、あたし名前を教えてもらってないの。ヒューブの従兄弟の背の高い方は、とっても息が合ってたもの。
 ああ、でももう二人のことは許してあげて。そしてどうにか助けてあげて。あたしが力になれれば良かったんだけど、一人で抜け出すのがやっとで。
 若い女がたくさんいるところに紛れ込めば、目立たずに時間を稼げるかと思って、こうして娼館に来たんだけど…信じられないわ!女の人がいないの!
 いるのは綺麗なおにーちゃんたちばっかりよ。この国の行く末が心配っ」



ユーリのマシンガントークに負けないものがあるな。
ヴォルフラムはゴミ箱に八つ当たりしている。



「ではきみは、陛…ユーリの居場所を知ってるんだね?」

「少なくとも何処に連れて行かれるかは、判るわ。あたしもそうなるところだったから。正式に別れると誓えなかった場合…寄場送りにされてしまう」



ヨセバオクリ?