私が目覚めた翌日、有利が目を覚ました。 私と同じくヨザックにはやっぱり驚き、ベアトリスの無事を喜んで。 夜明け前に船を脱出。 そして、捕らえられた魔族は人形に変わり果てたのであった。    登山遠足は異界に繋がっている 死ぬ。 これはなんて地獄ですか。 子供でも楽に山頂に行けますよなんておっしゃったのはどこのウェラー卿ですか。 「楽に登れる子供がいたら、世界スーパーチルド連に入れるよっ」 「なにいってるんですか、こんな坂道。登攀訓練にもなりゃしない」 最近の子供ってのはさぞや強靭な肉体をお持ちなんでしょうねっ! 「昼前になんとか登り切れば、時間に余裕がもてますよ」 「けど俺さっき胃の中のもん全部吐いた病人だぜ!?なのにこれじゃ苛酷過ぎるよ」 「それは陛下が意地汚く、急にフルコース食ったから」 そう、まさに自業自得。 同じ部屋で胃の中のものを出されて、思わず有利を怒鳴りつけてしまった。 「もうちょっとで休憩所があるよーん!」 「ちょっとってどれくらい!?」 山を登り始めて最初のうちこそ会話をしていたが、本気で疲れを感じ始めてからはしゃべる気をなくした。 ヴォルフラムも同様らしい。 それに比べてヨザックの元気なこと。 イラつくくらい、元気なこと。 「…ちゃ、茶店…?」 日本に戻って来たんだっけ? それとも歩いてるうちにタイムスリップ? はたまた白昼夢でも見てるんだろうか。 休憩所は、時代劇の茶店にそっくりだった。 「…あれぇ…」 しかしやはりここは江戸時代ではなかった。 出されたのは紅茶とクッキー。 ついでに女将は金髪碧眼。 「…こんなはずじゃ…」 ああ、やはり有利とは感性が合うようだ。 「あのね、お客さん、ご存知だとは思うんだけどもね。祭りのみこしが出発すんのは、ここじゃなぐって隣の山なんだけどもね」 女将さんが有利に声をかける。 あらまあ、すごい訛りだ。 「えっ!?ここは祭りと関係ないの!?」 「休火山はお隣の山だよ。ここは温泉宿が四、五軒あっだけで、それだってうちんとこでおしまいだけども」 「ちょっとぉ、俺たち間違えたらしいよ!?下山してもう一度チャレンジなんて、俺はまだしも…」 ヴォルフラムと私はもう無理です。 正気でいるだけ私の方が丈夫なんだろうかと、別の世界にお行き遊ばしているヴォルフラムを窺った。 「間違えてませんよ。用があるのは隣の神殿じゃない」 「え、じゃあ観光協会で配ってたパンフの、パルテノン神殿みたいなとこには行かないの?」 「見たかったんですか?それは申し訳ないことを」 見なくていいよ、帰ろう。 「休火山から駆け降りる炎のみこしなんかに興味があると思わなかったんで。俺たちが用があるのはこの山の頂上」 まだ登るというのか! 「お客さん、山の上に行ってもどうしようっもないよ!」 そうだ、帰るべきだ。 「頂の泉はあれ以来、閉鎖されてっし、他に見るよなもんもなんもないし!確かまだ釣り堀は残ってるけどもね」 「あれ以来ってなに?何かあったのか」 「十五、六年前の夏の夜に、天から赤い光が降ってきたんだけども。そいづが頂の泉に落っこって、泉は三日三晩も煮え立ったんっす」 「隕石だったのか!?」 温泉だなー。 「…魔物だったんっす」 「魔物?」 「そう。それから泉にはだーれも入れなくなって。入るとビビビっと痺れちゃうんだけども。  ひどい人は心臓止まっちまったり、大火傷したりで大変なんっす。  湯に触らずに奥の泉まで行って、魔物を見た人が一人だけいるんだけどもね、  なんか銀色でピカピカしてって、掴もうとしたらあまりのことに気ィ失っちゃったんっす」 銀色のピカピカねぇ…。 あ、魔剣か! この旅の目的を、ようやく思い出した。 「安心せい、女将。我々はその魔物を退治するために参ったのだ。じきに泉にも平穏が訪れるであろう」 「…銀色のピカピカが掴めりゃあな」 「ヨザ!」 「だってそーだろ?これまで何十人もが被害にあってるんだぜ?坊ちゃんと嬢ちゃんが無事って保障はねーじゃん」 …ふぅん。