私ね、魔術が使えないって知ってからいろいろ考えた。
自分にできることは何だろうって。
魔王って二人いるわけじゃない?
だったら、片方が武の道に進んでもいいと思ったんだ。
わたしができること
「なっ、なにっ!?」
タイタニック!?
船に突然の衝撃が襲った。
悲鳴と大勢の足音が聞こえる。
「!」
すごい勢いでコンラッドが部屋に入ってきた。
「コ、コンラッド?」
「とりあえずユーリたちの部屋へ!」
何だろう、船が沈むとか?
「ヴォルフラム!」
「なんだ?」
「剣はあるか?」
「ある!」
剣、だって?
「よし。じゃあ三人ともここに隠れて」
コンラッドは道中ずっと持ち歩いていた杖を手にすると、すらりと抜いた。
仕込み杖だったとは。
「冷静に聞いてください。この船は賊の襲撃を受けています」
「海賊!?」
「そう。もうかなりの数が突入してきてる」
「じゃ、コンラッドも早く隠れろよ!」
「なに言ってんですか」
それはこっちの台詞だ。
「こういうときのために、俺がいるんだ」
コンラッドはこっちの息がつまりそうな笑みを見せる。
「ちょっと待って」
「何です、時間がないんだ」
「三人もクローゼットに入れるわけないでしょ。私も行く」
「何言ってるんですか!」
コンラッドが本気で怒鳴る。
負けちゃ駄目だ。
「剣はまだあるでしょう?」
「それなら俺が行く!」
「私ね、前回こっちに来てた時、有利が倒れてる時に剣を習ってたの。だから有利よりは私の方が使い物になる」
「だからって」
今にもノドがからからに渇いて言葉を紡げなくなりそうだ。
怖い。
「ヴォルフラムに二人も護れって言うの?それに、私は女だから」
それなら余計隠れとくべきかもしれないけど。
「すぐに殺されたりしないよ。捕まっちゃったら迎えに来てね」
「!」
「コンラッド。私は自分の身は自分で守る。本当に危なくなったら抵抗はしない」
きっとまともに戦えない。
だけど、ここで三人で隠れててもどうなるとも思えない。
「………。俺のそばを、決して離れないでください」
その言葉にも笑みを見せろ。
実力なんて皆無。
コンラッドに続いて部屋を出て行く。
「またあとでっ」
軽く、友人と別れるように言った。
もちろん笑顔だ。
せめて、虚勢くらいは張ってみせる。