舞踏会ですって? それはさぞや豪華なんでしょう。 ええ、確かに豪華です。 いや、豪快です。 一曲踊っていただけませんか、シンデレラ? 「ねぇ、私、部屋戻ってもいいかな」 嫌だ嫌だとごねた末に、結局着せられたドレス。 それは恥ずかしくて拒否していたのだが。 今、本気で帰りたい。 「そういうマナー…なのかな」 「としか考えられませんね」 床に散らばる無数の骨、骨、骨。 誰か、今すぐ掃除機を。 誰か、今すぐほうきを。 足の下で悲しい音がする。 一歩進む度に、涙が出そうになる。 「ここまできたら腹を決めて、踊っていただかなくては」 「「誰が?」」 「もちろん、お二人ともです」 「「私(俺)が!?踊れるわけないじゃん!」」 今日も魔王二人はシンクロ率が良好のようです。 「そうはいっても、ご婦人方が、誘ってもらいたそうにこっち見てるし」 「あ、ほんとだ。モテるね、二人とも」 男性陣の視線は気付かないふりをした。 「とりあえず、まずは手本を見せますから」 と言って、コンラッドは…。 「なんで私の手を取ってるんですかね」 「坊ちゃんに見本を」 「い、いいよっ!むしろ有利に踊り方教えてあげなって!」 そうだよ、仮に女の人は男の人のリードがあるけど、有利が誰かと踊る時は困るじゃないか。 「そうですか?それは残念です」 その台詞、聞き覚えがある気がするよ、カクさん。 「いってらっしゃい」 踊り始めた二人を微笑ましく見守る。 コンラッドが女役というところがアンバランスで面白い。 …と、有利がご婦人方に取り囲まれた。 一人すごく目立つガタイのいい婦人がいらっしゃる。 ああ、有利は誰に選ばれてしまうのか(もはや彼に選択権はないだろう)と思っていたところ。 選んだのはベアトリスだった。 「一人にしてしまってすみません、お嬢様」 「コン…カクさん」 「一曲踊っていただけませんか?」 「なっ、だからダンスは…は…」 カクさんはあくまで爽やかな笑顔で。 断れるはずなんて、なかった。 「そう、左左、右右…」 口で説明してくれるものの、実際私はコンラッドに体を預けているだけだった。 ふわりふわりと、まるで宙に浮いているかのよう。 夢みたいだ。 異世界でドレスを着て飾って、こんなに素敵な人と踊っているなんて。 ドキドキして顔が見られないけれど、それでも時々視線を上げるとコンラッドが微笑んでくれる。 だけど、これはシンデレラの魔法。 一瞬で解けてしまう。 「あ、曲変わったね」 現実に引き戻された。 足元で感じる、鳥肌が立つような感覚。 「…ごめん、カクさん。もう限界」 「そうですか。…部屋までお送りしたいんですが、ちょっと」 「何?踊りたいご婦人でも?」 するとコンラッドは苦笑した。 「とりあえず、気をつけて戻ってくださいね」 「はーい」 なんかうやむやにされた気がする。 ホールを出ても、耳の奥で、骨を踏む音が響いている気がした。