ああ、お父さん、お母さん。 決して不良になったわけじゃないんです。 この髪を染めてしまうのは仕方がないことなんです。 だって、涙や鼻水でボロボロのギュンターとお留守番なんて。    船上でドッキリ 船の上はなんて静かなのか。 ギュンターのことを思い出すと夢に出そうだ。 もちろん悪夢として。 そんなものすごい勢いのギュンターをどうにか説得して、コンラッドをお供に出発したのだが。 船はなんと最高級の部屋。 わくわくしながら向かうと、金髪の天使が最高級の部屋で待ち構えていた。 それにまず驚いたが、もっと驚いたのは自分から乗り込んできたくせにひどい船酔い体質だったこと。 はじめこそ心配したが、あまりの酷さに何とも反応できなくなってしまった。 「おはよう、ヴォルフラム」 「なんかちょっとでも食ったほうがいいと思うよー?パンとかアイスとかプリンとか」 「うぷ」 「ちょっと、可哀相だけど朝からやめてね」 赤毛と茶色の瞳。 私と有利は兄弟という設定である。 どちらが上かということは特に話していないけど。 「ヴォルフラムが船に弱いとはねぇ」 「だから来るなと言ったのに。あんな弱った顔されちゃ、説教する気も失せますよ」 「私、船酔い心配だったけど、あれ見たら逆に酔わないや」 ちょうど隣のドアからも、廊下に出てくる人がいた。 5歳くらいの小さな女の子の手を引いた、立派な身なりの中年の紳士。 彼は口ひげの下に精悍そうな笑みを浮かべて、豊かな髪と帽子に手を掛けながら、ゆっくりとこちらに歩いてきた。 そして。 「おはようございます」 「「わぁっ!?」」 帽子と髪を同時に取った。 「失礼、主人はまだカヴァルケードの方の挨拶に慣れてないものですから」 「あ、挨拶だったんですか」 「朝食ですか。私も妻が船酔いでして、部屋でゆっくりくつろげないのです。どうです、ご一緒しませんか?」 そうそう、性格の設定は内気なお坊っちゃまとお嬢様。 さりげなくきゅ、と手を繋いで、俯いて小さく首を振る。 お?手の力が強い。 耐えてるんだろうな、有利。 私も自分に鳥肌が立ちそうだ。 「ご覧のとおり、たいへん内気な主たちでして」 「そうでしたか、それは残念。婚約者が密航の危険を冒してまで追い掛けてきたと聞きましたので、  どんなに情熱的な美丈夫かとお噂しておりますれば…」 有利はさておき、婚約者は情熱的だと思います。 そうか、密航の危険を冒していたのか。 「そのような可愛らしいお方とは…いや失礼、しかし、さぞやご苦労もおありでしょうなあ。  …申し遅れました、私はミッシナイのヒスクライフ、これは娘のベアトリスです」 可愛い女の子だなぁ。 私と有利をじっと見つめている。 「主人は越後の縮緬問屋のミツエモンとオギン。わたくしは供のカクノシンと申します」 お銀さんはもちろん主ではないが、水戸黄門のメンツを考えると偽名はこれしかなかった。 「エチゴ?エチゴ、というのは、どのあたりの」 「越中の東にあたります」 「エッチュウ…」 「飛騨の北です」 「と、とにかく遠いところからおいでのようだ」 混乱してる。 私は吹き出しそうなのを必死に堪えていた。 「では、やはりヴァン・ダー・ヴィーアの火祭りを…」 「そんなことも満足にできねぇのかっ!?」 近くで悪意に満ちた怒鳴り声。 有利は反射的に走り出した。 「ゆ……もうっ!」 ホント、正義感がまぶしいよ。