来た道と帰り道はだいたい同じもの。 来た手段と帰り道も、同じだったようだ。 これは私が再び湯船に飲まれる、ちょっと前の話。 ほんと、ほんの数時間前の。    魚は新鮮さが命です なんということでしょう。 ヴォルテール城のコックさんが腕を振るった料理は。 大変なことになっていた。 「…なんでこんなに」 「俺が教えたんですよ。陛下がフナモリを食べたいって」 「いくら舟盛りだからってさ」 豪華。すごい。 こんなの旅行に行った先でも食べられないような。 そう、食べられないような。 ビチビチと尻尾をばたつかせている、新鮮という言葉だけで片付けられない海の幸である。 「言ってたでしょう、生の魚って」 「生きたとは言わなかったぞ!?」 「ていうか、ボート盛りって…」 帰ってきた私たちを迎えたのは、ちぎれんばかりに手をふるギュンターと、げっそりと目の下に隈をつくったグウェンダルだった。 そんなになるまで仕事をしてくれたのだろうか、グウェンダル。 ヨザックは黒曜石を持って、シルドクラウトで船を降りた。 行き先は誰にも言わなかった。 ツェリ様といえば、リックを乗せたまま、また旅に出てしまった。 新たな子供ができた心境でしょうか。 いや、ツェリ様は新たな恋を探しに行ったのだ。 すっかり忘れていたけど、カヴァルケードのことも考えないといけなかった。 この国が戦争を仕掛けてきそうだっていうから、私たちは魔剣を取りに行ったんだ。 有利がいっそ自分達が出向いて頭を下げて、仲良くしようと持ちかけてこようと悩んでみたりしたけれど。 外交とは予想もつかないものらしい。 解決策は、先方から飛び込んできたのであった。 「陛下…カヴァルケードからの訪国、拝謁の打診でございましたが…かねてよりカ船団を脅かしていた海賊の一部を、  旅の魔族が討ち倒し、元王太子とその妻女、ご息女の命を救ったことに対する感謝の意を…そのようなことをなさいましたか?」 「………」 う、あの魔術は二度と思い出したくない。 「海賊はひどい目に遭わせたらしいけど。ま、例によっておれ自身は覚えてないんだ」 幸せなやつめ。 「コンラッドかヴォルフに訊いてくれる?」 「どうもヒスクライフなる人物らしいのですが…」 「「ヒスクライフ!?」」 挨拶が一番に頭に浮かぶ。 大丈夫、ギリギリ顔も思い出せる。 ギリギリ。 「どうやら現カヴァルケード王の長男、ヒスクライフは、ヒルドヤードの商人の娘と道ならぬ恋に落ち、王室を出奔して野に下ったようなのです。  ところが現王の次男が病で亡くなり、子を生していなかったために後継ぎがなく、  カヴァルケード王室典範によりヒスクライフの息女に継承権が生じたということで、近々彼等を呼び戻すとか…」 「ええっ!そうだったの!?」 「それじゃベアトリスは本物の王女様だったんだ!」 コンラッドが、したり顔で有利の脇腹を小突いている。 「ということは陛下は、女王候補の夜会デビューのお相手ということになりますね。どうします?  一目惚れされててカヴァルケード王室から求婚されたら」 「わー、有利モテモテだねぇ」 「縁起でもないことを!私達の陛下の唇を、人間ごときに奪われてなるものですか!」 どうしてそこで、ギュンターが言うのかな。 「あ、でもおれたち人形のまま、シマロン本国で尋問されてるはずだよ」 「このままでは国際規模の恩知らずになってしまいますからね」 すごい規模だ。 「カヴァルケードは国を挙げて救出するでしょう…その、人形を…」 想像するだけでも面白い。 これにはギュンターも笑いを堪えた。 「偶然って恐ろしいなあ」 「どうして」 「だって偶然、同じ船に乗り合わせて、偶然、海賊に襲われて、偶然、ベアトリスを助けたから、今になって平和的解決できたわけだろ?」 「必然って言葉知ってる、有利?」 私も驚いてはいるけど。 「あの船に誰が乗っていようとも、あなたは同じことをしたはずだ。そこだけは必然であって偶然じゃない。  もしこれが誰かの筋書きだとしたら、成功の可能性は極めて高い」 「筋書き!?こんなこと企画立ててやるやついるー!?」 「いないでしょうね、この世には」