はあ、やっぱり有利はすごいや。
だって私、まだそうは思えないもの。
どっか抜けてるようで、頭がいい。
でもまぁ、信じて実行しましょう?
ぷれぜんと ふぉー ゆー
モルギフが、壊れました。
「ごめんなさい陛下、そんなつもりはなかったのよ。壊れるなんて思ってもみなくて」
魔剣は船室の中央に、どす黒い塊となって横たわっていた。
さっきまであんなに元気だったのに。
「モルギフ」
『…うー…』
とりあえずまだ生きてるようだ。
「あまりにも不細工で変わっているから、せめて船旅の間だけでもあたくしのお部屋に飾ろうと思ったの。運ぼうと手をかけたら…この子が…」
ツェリ様に呼ばせれば、魔剣ですら“この子”らしい。
「この子が咬んだのよ」
まだ咬み癖が直っていなかったようだ。
「ビビビってなったりはしなかったんですか?」
「いいえ、それは大丈夫。でも、あたくしびっくりしてこの子を落としてしまって、そうしたら元気がなくなってしまったの。多分…」
やっぱり前王陛下だから触っても平気なんだろうか。
「これが取れてしまったせいじゃないかしら」
ツェリ様は綺麗な指で小さな石を摘んでいる。
有利が剣を手に取った。
「何!?今だれかなんかしゃべった!?」
あの時と同じ。
闘技場でモルギフの名前を叫んだ時と。
反射的に私も剣を握る。
“もしも額の石を失って、私がただの剣と成り果てても、魔王の忠実なる家来として、おそばにおいてほしいのよ”
「「なぜ、女言葉!?」」
「誰と話しているんだ、お前たち」
「多分」
「モルギフと」
“そう、ウィレムデュソイエイーライドモルギフ。お傍においてあげる”
「ヨザック!」
隅で傍観していたヨザックは、不意をつかれて背筋を正した。
のんきにシャワー浴びてたんですか。
「なんです、陛下」
「この黒曜石をお前に預けることにする」
「はあ!?」
その場の全員が唖然とした。
だけど、コンラッドだけはすぐに平静さを取り戻して、次のフレーズを待ち受けている。
「ツェリ様が持ってるその石を、誰も思いつかないような所に捨ててほしいの」
「捨て…」
「なんでだ!?せっかく手に入れた魔剣の一部を、どうして捨てようなんてバカな真似を」
「そうよ、陛下、いい耳飾りになると思うわ」
「母上、陛下の御意思ですよ」
コンラッドはツェリ様の指から石を取って、ヨザックの手のひらに押し付けた。
「…オレがこれを持って姿を消して、他国の王に売りつけちまったらどうすんの?それとも逆にこいつを国に持ち帰って、陛下以外の人物に渡したら?」
「グウェンダルに?」
意外そうな顔をした。
「それが眞魔国のためだって思うなら、そうするといい。ただし…」
ヨザックに渡すことを提案したのは有利だ。
だから、最後の言葉は有利に託す。
「おれたちはお前を選んだんだ。この人選を間違いにしないでくれ」
ヨザックは獣の笑みを見せた。
「拝命つかまつります、ユーリ陛下、陛下」
その笑みは、嫌いじゃない笑みだった。