流された先は、なんとヴォルテール城。 グウェンダルってばお城持ちだったなんて、さすが王太子。 そんな私達を待っていたのは豪華な歓迎会ではなかった。 戦争が起こるかもしれないだなんて。 涙も鼻水も武器になる 「戦争はやらないって言ったじゃない」 「俺たちのこの目の黒いうちは、誰も戦争なんかで死なせたくない」 「では、どうしたいのいうのかね、陛下」 …グウェンダルは相変わらず怖い。 子供受けは絶対に悪いだろう。 「間もなく攻めて来る人間どもに、応戦もせずに国をくれてやれとでも?」 そこまで馬鹿なことを言うような王に見えるのか。 「攻めて来る相手がわかってるんなら、対策だって立てやすいじゃないか! 話し合いの場を持ちゃいいんだよっ。そっちはうちの国の何が欲しいのって訊いて、 だったらそっちの特産物のあれと交換しましょうとか、協定とか条約とか結べばいいんだ」 「陛下はお疲れのご様子だ。部屋までご案内しろ」 「何言ってんの、話は終わってないと思うけど?」 「そうだ!王様の命令なんだから、ちゃんと従えよっ」 子供どころではなく、大人すら泣かしそうな眼で睨まれた。 「「し、従ってください」」 「知ったような口をきくな。話し合いに応じるような相手であれば、素人に言われるまでもなくそうしている」 どうやら断られたらしい。 そりゃ、今みたいな眼じゃ怖くて話し合いどころじゃない。 一方的だ。 「俺たちだったら向こうも話を聞いてくれるかもしれない」 「そうそう、私たちは迫力もないどこにでもいるような平凡な人間だしね」 「平凡な人間だって!?お前たちがか!?」 「陛下は魔族ですっ!魔族の中でも高貴なる黒を御身に宿された、正真正銘の魔王ですっ」 ああ、あっちの世界とのギャップがまぶしい。 「コンラート!」 「なにか」 「お前のお気に入りの新王陛下は、我々魔族と人間どもと、どちらを勝者にするつもりだ?」 「…俺には難しい質問だな。陛下はまれにみる大物だから。でも、戦を回避する方法なら、お勧めの案がひとつある」 「ホントにっ!?」 「どんなどんなっ!?」 「まあ落ち着いて。ギュンターが説明しますから」 ギュンターは長く長くため息をついてから話し始めた。 「我々魔族には、魔王陛下その人しか手にすることのできない伝説の武器があるのです。 その威力たるや、ひとたび発動すればこの世の果てまで焼き尽くすという…実際には小都市を吹き飛ばす程度ですが… とはいえそれが伝説の剣であることに変わりはございません。史上最強の最終兵器、その名も…」 「リーサル・ウェポン!メルギブだな!?」 「いいえ陛下、モルギフです」 どっちもなんとなく似ていて聞き覚えがある感じはしたが、なんのことだかさっぱりだ。 「最後に発動させたのは八代前のフォンロシュフォール・バシリオ陛下で、 その後はようとして行方がわからなくなっておりましたが、先頃、ずっ…そっ、その所在が…ずずっ」 「わかったんだ!」 「なるほど、最終兵器が魔王の許に戻ったと広まれば、周辺の国々も迂闊にわが国に手を出せなくなるな。 千年近く手にした者はいないから、王としての格も上がって畏れられるし」 「千年かぁ…」 「そんなにすげーの?」 「記録では、モルギフが人間の命を吸収して最大限の力を発揮した時には、岩は割れ川は逆流し人は焼き消えて、牛が宙を舞ったらしい」 「牛が!?」 そんだけすごいのに、なぜ牛は宙を舞うだけで助かったのか誰か教えて。 「まぁとりあえず、それがあればいいんだよね。戦争にならないんだよね?」 「今すぐダッシュで取りに行こーぜ?どこに行きゃいいの?誰が行ってくれんの?メルギブ取りに」 ギュンターは俯いたまま話す。 あれ、もしかして泣いてるの? 「眞魔国の東端であるここ、ヴォルテール地方から、船でかなりの長旅になります。 シマロン領ヴァン・ダー・ヴィーダ島というずっ…ずずっ…み、未開の野蛮な地に…」 「行ったこともないのに未開だの野蛮だの言うのは良くないってぇ」 「そ、そうでございますが、ああっ陛下っ!」 ギュンターはまだしゃべり続けているのだが、すっとさりげなくコンラッドが私を後に引いた。 「コンラッド?」 「ユーリには悪いけど、あなたには可哀想だから」 「え?」 ああ、納得。 ギュンターは涙も鼻水も構うことなく、有利に頬ずりとか鼻ずりとかしていたのであった。 美形が台無しだ。 っていうか、私があんな目に遭っていたら、何かを失ってしまった気がする。 有利、あなたの尊い犠牲は忘れない。