間違いを犯す。
そして気付く。
愚かな行為を繰り返す。
そして、気付く。
きっと、どこかは同じなのに
「「ウィレムデュソイエイーライドモルギフ!」」
「ユーリ、!?」
「吐くならエチケット袋の中にしろーっ!!」
どひゃん。
そんな珍しい擬音とともに、モルギフは口を一文字に結び、これ以上出すまいとしている。
「どんな魔術を使ったんですか?」
「魔術ならいいんだけどねー」
「ただ脳味噌に送られてきた電波のとおりに、声に出して読んだだけ」
「文字?字が読めるようになったんですか!?ああすいません、その話は後でゆっくり。
ヴォルフとヨザックが道を確保しているはず。今のうちにここから脱出しないと」
「でもリックが」
リック?
少年が横たわっている。
「すごい傷…あれ?船の見習いだった子?」
コンラッドが少年を抱え上げ、私たちにモルギフを、と念を押して先に立った。
入場ゲートの脇には、女の人が独り。
途方に暮れているようだった。
「あの…奥さん」
有利が声をかけると、はっとして彼を睨んだ。
目の中には怯えと怒りの絡み合った色。
「これ…」
有利はポケットを探って紙幣を摘み出す。
そして、それを女の人に握らせようとした。
だけど。
「あんた魔族だったんだね!?」
彼女はすばやく身を引いた。
汚れたものにでも、触れたみたいに。
「普通の子供だと思ったら、あんな、あんな恐ろしい魔剣を!あんた、あたしたち人間を殺しに、滅ぼしに来た魔族だったんだね!?触らないで!」
「わかった触らないよ、これ、お金、ここに置くから」
「あたしがそんなもん拾いにいくと思うかい!?あたしが金につられて近寄るのを待って、その魔剣の餌食にしようって腹なんだろ!?
畜生っ、そんな武器がなんだっていうんだ、今にあたしたち人間にだって、神様がもっと強い武器をお与えくださる!
今にあたしたち人間だって、そんな剣よりずっと凄い兵器を造って…」
「どうでもいいよそんなこと!」
有利がコンラッドから財布を巻き上げる。
「この金で息子さんの病気、治しなよ」
「魔族の金なんかで医者にかかったら、息子が呪われる」
人間って、ほんと馬鹿だなぁ。
もちろん、私を含めて。
財布も札も地面に置いた。
コンラッドは有利に向かって笑いながら言った。
「俺の父親は、魔族の女との間に子までつくったけど」
「呪われた?」
「いや、八十九まで気ままに生きたよ」
走って控え室まで戻る。
さっきの女の人の態度は、正直傷ついた。
だけど、もう吹っ切れた。
「多分、拾ってくれるよな」
「うん、大丈夫。母親って強いから」
兵士から奪った制服を持って、ヴォルフラムとヨザックが待ちかねていた。
二人とも何か言いたそうだったけど、しゃべってる場合じゃないらしい。
「二人とも、これを着て、早く。この混雑で馬は使えない。港ではなくマリーナまで兵士らしくしててください」
闘技場から逃げ出した人々で道の密度は高い。
なるほど、変装とは便利だ。
制服の威力は抜群で、みんな嫌な顔をしつつも避けてくれた。
見ると思わず口を開きっぱなしにしてしまいそうな豪華クルーザーか並んでいる中。
ひときわきらびやかで優雅な船。
そのデッキで女の人が手を振っている。
女の私ですら魅了されるような、思わず赤面するような。
腰まである美しき金の巻毛、世のお母さんが見ちゃいけません、と言いそうな服。
ああツェリ様、相変わらずですね。