結局私は、押し付けたにすぎない。

ひとの命を奪うというということから。

一人だけ逃げたんだ。

言い訳をして、逃げたんだ。



   魔剣発動!



「只今戻りました…と、ユーリとヴォルフは?」

「………」

?」



怠い体を起こす。
まだ少しクラクラする。



「ねぇコンラッド。命の最後に立ち会う仕事って何だと思う?」

「命の、最後?」

「…ヨザックが持って来たチラシに書いてあったみたい。私は読んでないけど」



読もうとしたところで読めないけど。



「ヨザック?あいつ、老人施設に行ったんじゃ」

「コンラッド、心当たりある?」



今更だけど、行かなくちゃ。



「…そうですね、行ってみましょう」



祭りの熱はさまるどころか、最高潮だ。
人混みではぐれるといけないから、とコンラッドと繋いだ手。
それは有利の手と全然違う。



「多分、闘技場だ」

「え………?」



闘技場。
命の最後。
まさか。



「…あいつっ」



突然、体が軽くなった。
ヨザックを恨んだから?



「陛下?」

「もう平気!走れるから急ごう!」



闘技場は大混乱だった。
有利に何か起きたのだろうか。
悲鳴と怒号が響き、人々は我先にと逃げている。
客席から見下ろすと、闘技場の中央で…。



「モルギフ!?」



剣が液体を吐いていた。



「「有利(ユーリ)!」」

「コンラッド!!」

「ごめんね」

「何謝ってんだよ」

「とにかく剣をなんとかしよう。下を向けるんだ、刃先を下に」



私もモルギフを掴んだが、女の力が加わったところでビクともしない。
すると、コンラッドが私の背後に回って両手を重ねて剣の柄を握った。



「コンラッド、だめ!」

「そんなことしたら、手がっ」

「…平気です。いいですか、ゆっくりと下に、そう」



"名を呼べ"



「なに!?」

「なんか言った!?」

「俺じゃない」



文字が頭に浮かんでくる。
それはあくまで声でなく文字。

"わたしの名を呼べば、できる限りのことをしよう。わたしの名は…"