二十年前。 あなたは何をおもったんだろう。 二十年前。 みんなはなにをしていたんだろう。    わかるものは、わかってしまう 「ぼくではなく母上に訊くといい。ジュリアと親しかったはずだから」 「親しかったって、どういうことだ?」 「つまり…眞魔国には三人の桁外れの魔力を持つ女性がいたんだ。一人は黄金のツェリ、ぼくらの母上だ。  もう一人は赤のアニシナ、彼女は兄上…グウェンダルと事情のある、燃えるような赤毛の小柄なご婦人だが」 「グウェンダルと事情があるって…事情ってどんな危険な事情…」 「ぼくに訊くな!最後の一人が城のジュリア。ジュリアは亡くなった。二十年近く前にな。眞魔国の三大魔女だったんだが、彼女は生まれつき目が見えなくて…」 「気の毒に…コンラッド…恋人を亡くしてるんだ…」 ヴォルフラムが、素っ頓狂な声をあげた。 あれ、私もそう思ってたんだけど。 「ジュリアが!?ジュリアがコンラートの恋人だって!?そんな話は聞いたこともない!」 「なんだよ、コンラッドの元彼女じゃねーの!?」 …ちょっと、ほっとしたりして。 「じゃああとひとつだけ、ヴォルフ。グランツの若大将ってのは?」 ヴォルフラムはすぐに答えない。 私は天井を見上げていることしかできない状態なので、様子がわからない。 「グランツは眞魔国の北の端。アーダルベルトの生まれ故郷だ」 アーダル、ベルト。 身体がこわばる。 「あいつは婚約者が死んですぐに国を捨てた。魔族に復讐するために。アーダルベルトと婚約していたのが…白のジュリア。フォンウィンコット卿スザナ・ジュリアだ」 一瞬。 本当にほんの一瞬だけ。 私が、泣きそうになった気がした。 「ユーリ」 ヴォルフラムの声は冷たい。 「あ、はい」 「お前、どうしてそんな顔をしているんだ」 「おれどんな顔してます?」 「何故お前が、アーダルベルトとジュリアのことでそんなに期待した顔するんだ?なにか段々腹が立ってきたぞ。よーし、またこの日記を読み上げてやる!」 日記? 「うわ、それを朗読するのだけはヤメテ」 「戴冠式に臨まれる陛下のご様子は気丈にふるまわれながらもどこか不安げで」 「やーめーろーっ!」 何が読み上げられているというのか。 「うわっ、ちょっとヴォルフラム!?」 ヴォルフラムが有利からベッドに逃げてきた。 こっちは病人だってのに! 「…触れれば倒れてしまいそうな儚さは…」 「いっそそいつを燃やしてくれー!」 「だーっもう!あんたたち!どきなさいよーっ!!」 その時。 「ちょっと聞いてくださいよ坊ちゃん方…っと」 「………」 「ひょっとして、お楽しみ中だったかな?」 ヨザックは、開けたドアをそのまま閉めかけた。 「馬鹿言わないでよ!そんなわけな…うーあー…」 そうだ、私は元気じゃなかった。 「あんた老人施設に行ったんじゃないの?」 「行こうとしましたとも。けどオレちょっとだけ頭使って、まず役所で施設入所者を調べたのよ。  そしたら予想どおり祭りの期間中は、年寄り全員帰省中だって。…で、何気なくもらったこのチラシなんですけど」 「だからおれには読めないんだってば」 なんのチラシだろう。 平和になったベッドの上で続きを待つ。 「急募!命の最後に立ち会う仕事。死を目前にした同年代の少年を励ましてみませんか?十代の容姿端麗な少年求む。  剣持参歓迎、賃金破格、面接随時…細かい文字の部分は、ぼくにも読めない」 ………。 「けど、どういう仕事だよ、命の最後に立ち会うって。わっかんないなあ、この島の文化は」 「ものは試しだ。面接、行ってみましょーや」 私は女だから行っても意味がないし、コンラッドが帰ってきた時のために、と留守番することになった。 こんな状態じゃ留守の番にもなりゃしないけど。 部屋を最後に出て行こうとしたヨザックに声をかける。 「ねえ、ヨザック」 「はい?」 「…いや、何でもない」 やめろ、と言ったところで、私には何もできはしないんだ。