やっと手に入れたと思ったら。 魔剣の呪いでしょうか。 それとも私を主扱いしていないのか。 私の体調は最悪だ。 あなたのお命、頂戴します 「うー…」 「モルギフみたいな声出すなよー」 仕方ないじゃないか。 モルギフを引き上げてから、私はすっかりこんな調子だ。 とりあえずちゃんとしゃべれるようになったし、自分の足で歩けるようにはなったけど。 気だるさがずっと消えない。 「ふむ、若い女性を好むという史書は正しかったのかもな」 「なにそれ…」 「ギュンターが日記に書いていたとおり、人間の命を吸収させないと、魔剣として使い物にならないんじゃないのか?」 「なにそれ!私を殺す…気…うー…」 「お前は魔族じゃないか。必要なのは人間の命だ」 いいのか悪いのか。 「命ったってお前ねぇ、そう簡単に言うけど…どうやって人間の命を吸わせりゃいいんだよ。コンビニで売ってるもんじゃないんだぜ?」 「てっとり早くて数を稼げるのが村の焼き討ちだまぁ。ちょっと頭数が減るけど一家惨殺も有効じゃねぇ?」 「ヨザック、陛下がそんな恐ろしいことなさるわけがないだろう。かろうじて闇討ちか辻斬りなら、ニッポンのサムライも昔やってましたよね」 二人とも黙れ、という言葉を有利が代弁してくれた。 「だーっもう、お前等っ!倫理感喪失もたいがいにしろよ!?罪もない人の命を奪うなんて、おれにそんなことできるわけないっしょ!? おれじゃなくてもヒトとして駄目だし!」 そうそう、駄目だし。 その結果、私たちは病院におもむき、東西南北を駆け巡ることになった。 しかし、昼まで頑張っても誰も旅立たず、逆に三人ばかり生き返らせてしまった。 ヴォルフラムは愛の天使なんて異名をもらったし。 「…なんか、作戦として、駄目だったのかもしれない」 「…かもねー」 病院の食堂で昼食をとることになったが、全く食欲はわかない。 あれか、今の私の状態って夏バテみたいなものだろうか。 「慰問団を装って尋ねたんだけど、この病院にはもう重態の患者はいないそうです」 …それは良かった。 「やだなあ、いくらモルギフのためとはいえ、こんな、誰かが亡くなるのを待ってる生活」 「生活ったってまだ半日しか過ぎてねーじゃんよ、陛…おっと、お坊ちゃん」 コンラッドが有利の皿を確かめて、自分のデザートを勧めた。 有利の皿の中身は、私と同様ほとんど減っていない。 「有利、食欲ないね」 「熱でもありますか?」 コンラッドは有利を覗き込んで、頬に触れて、額をくっつけた。 …いつの間に有利のお母さんになったんだろう。 「よせって、ガキじゃねぇんだから!」 「熱はないけど、顔色がいいとはいえないな。多分、昨夜の疲れも残ってるんでしょう。 よし、じゃ、午後は俺とヨザがそれぞれ西と東の施設に行ってみます。あなたたちはヴォルフと街に残って。 民家の二階を借りたから、宿屋よりは人目に触れずに過ごせるはずだ」 「ちょっと待てよ、モルギフはおれとリアしか持てないんだぞ!?せめておれが行かなきゃ始まらねーじゃん!?」 「無駄足になる可能性も高い。それに俺だけなら馬を借りて片道二時間てとこですが、坊ちゃんがご一緒だと倍はかかります。 様子を見て、ことが起こりそうだったらすぐ戻りますよ。お嬢様も休ませてあげないと」 確かに、体調は悪い。 街はとても楽しそうだ。 私はベッドの上で聞いていた。 その様子を見られないのは、少し残念。 「なあヴォルフ」 「なんだ?」 「ルッテンベルクの獅子ってなに?」 少し間が空いてから、答えがあった。 「そういえば昔、コンラートがそう呼ばれているのを聞いた。もう少し髪が長かったからな。ルッテンベルクはあいつの生まれた土地の名だ」 「じゃあ、ジュリアって誰」 “ジュリア” その名前は、私の体に溶け込む気がする。