ツェリ様、ジュリア。

ルッテンベルクの獅子。

グランツの若大将。

わたしのしらないせかい。




   真夜中の捕獲大作戦



「あらお兄さん、どちらまで?」

「えっ…って、!?」

「しっ!声が大きい!」



天使はおいといて、護衛とお庭番にはもうバレてるかもしれないけど。



「なんで…」

「なんでって。行くんでしょ?」

「いやでもさ」



私たち、二人で魔王じゃないか。



「誘ってくれないなんて水くさい。あーそっか、私有利に嫌われてるのね」

「そんなわけないって!」



そんな掛け合いをしながら、頂を目指した。









「見ないでよ」

「はい、見ません。絶対見ません」



昼間と同じように、手を引いて歩く。



「ねぇ、有利」

「んー?」

「なんでやる気出たの?」



お湯の温度は変わらない。



「へなちょこでも、進化したいじゃん」

「…ルッテンベルクの獅子が、私たちを信じてくれてるんだもんね」

「え?何で知ってんの?」

「聞こえちゃったから」

「おれも、聞こえちゃったよ」



…と、モルギフはもう目の前だ。



「有利、着いたよ」

「お…よう、魔剣」



水中で刃が光を放つ。



「なあ、メルギブ」

「モルギフ」

「…初めましてじゃないよな、昼も会ったよな、覚えててくれた?おれ、ユーリ、こっちは
 お前を…いーえ、あなたを誘いに来たわけよ。もう十五年も浸かってるんだろ?湯治にしたってもう傷も治っただろ。
 こんなに長いこと入ってたら、身体がふやけて溶けちゃうって。だからそろそろあがらない?
 自分であがる踏ん切りがつかないんだったら、おれたちがちょいちょいと手ぇ貸すから、咬まないって約束してくれる?」



アイコンタクト。
恐る恐る手を伸ばす。



「「ぎゃ!」」



ランプが沈んでしまう。
明かりがなくなって、闇が広がった。
しばらく待つと、月の光が照らしてくれた。



「刀って普通、顔ないよな。顔があっても生き物じゃないから、咬まねぇだろ!?」

「なんで咬むのかなぁ、剣なのに。まるで躾がなってない犬みたい」

「…そうだよ、犬だ」

「へ?」

「生きてんなら生きてるって最初から言えーっ!もうテメーを剣だなんて思ってやんねーかんなっ!お前は犬!犬じゃなきゃネグロシノマヤキシー!」



なにそれ。



「よし、。キャッチングは正確さが大切なんだ」

「はあ」

「常に正面で受けるように。あと、重いものはしゃがんでから持ち上げないと」



正面、ということは。
互いに正面なわけで。



「で、でも…」

「いくぞっ」



もう剣しか見えてない、って判断してもいいね?
潜ってモルギフの柄を正面から掴む。
そこでまたアイコンタクト。
目以外を見たらどうなるか覚えておくがいい。
一気に立ち上がった。
モルギフはしばらく抵抗したが、やがて引き上げられて姿を現した。
途端。



!?どうした!?」

「ふぇ…ぁ…?」



呂律が回らない。
全身の力が一気に抜けてしまう。



『あー』

「…あー?」

『うー』

「まさか、鳴くのこいつ!?」



よく見る酔っ払いが今の私だ。
有利に掴まることでかろうじて立っている。



「うわ、お、おい、!大丈夫かーっ!?」

「らいょーうじゃ…らい…」