ボートに乗って温泉を渡るなんて、滅多にできない体験だ。

温泉だなんてちょうどいい。

この疲れた体を癒して欲しい。

え、混浴?



   特別酸性温泉は美人の湯?



「けほっ」



むせた。
温泉は湯気がもうもう。
なんだかお湯に入らなくてものぼせそうだ。



「ちっ」



湯が跳ねたのか、コンラッドが手の甲を押さえた。



「大丈夫?」

「そんなに熱いの?まさか熱湯風呂!?」

「陛下、危な…」



有利がボートから指を浸してみる。



「ほどほどじゃん?」

「コンラッドが大袈裟な感じはしなかったけど…あ、ホントだ」



ちょっと熱めかもしれないけど、いい湯加減だ。
山登りで疲れた体が癒されるかもしれない。



「平気なんですか?」

「平気も何も…ぁいてっ!うわぁやばっ!あつ、あつつ、ビリビリすんぞ!?けど何で手は?何で素手で触って熱くなかったんだ?」



服にお湯が跳ねたらしい有利が騒ぎ出す。



「俺は手も痺れましたよ。ほら、腫れてきてる」

「うわぁ、大丈夫?」

「これはつまり泉質が酸性だってことかな」



正直、酸性にも程がある。
有利が裸足になって、親指を下ろしてみる。



「…大丈夫だ…」

「まずいな」

「何で?」



有利にならって両足を浸してみる。
やっぱり何ともない。



「俺達は魔剣モルギフが山頂にあるって情報を得て、ここに来ました。地元の話と照らし合わせても、どうやらこの泉の魔物がモルギフらしい。
 湯が特殊な変化を起こしているのも、恐らくあいつの仕業でしょう」

「へぇー魔剣の名は伊達じゃないねぇ」

「感心してる場合じゃないですよ。モルギフを持てるのは魔王陛下だけだと言ったでしょう?
 だからこそ湯に触れても平気なんですよ。服の部分は陛下じゃないから、攻撃を受けて熱いってわけです」



なんというセキュリティだ。



「銀のビカビカ見えてきたぜ!」



ヨザックが左手の照明を高く掲げる。

魔剣。

洞窟最奥の岩壁に寄り掛かるように沈んでいた。



「…申し訳ないが。陛下、服を脱いでください」

「「えぇぇぇっ!?」」

「いや、そうじゃなく、湯に入ってもらわないとならないので。
 ボートではこれ以上進めないし、服を着てるとさっきのように逆に被害が」



………。

三人の視線が痛い。

そう、いくらヨザックが女装をしようが男は男。
私はこの場で一人女なのだ。



「えっと、。おれ、取ってくるから」



その言葉に甘えそうになった時。



「そうですね。姫君はおとなしく王子の帰りを待つべきだ」



ぷち。



「誰がおとなしく待つなんて言ったかしら」

「へぇ?」



人を、仮にも陛下を馬鹿にしくさって。



「有利!」

「はいっ!?」

「早く脱いでボートを降りて目をつぶって!」



行ってやろうじゃないか。



「もちろん二人も見ないでよ。見たらどうなるか覚えておいて。見てなくたって、何かあればわかるでしょ?」

「…かしこまりました、



何度か周りの様子を窺ってから、意を決して服を脱ぐ。
そして有利の手を取った。